ミンダナオ和平枠組み合意への日本の貢献 -ミンダナオ紛争影響地域の開発現場から-

ミンダナオ和平と開発への日本の貢献

– ミンダナオ紛争影響地域の開発現場から –
福永敬(在フィリピン日本大使館 • 一等書記官 / 国際監視団・社会開発支援専門家)2013 年 2月28日

2012 年 10 月 15 日午後フィリピンの首都マニラにある マラカニアン宮殿では、1997 年から 15 年間も和平交 渉を続けてきたフィリピン政府(以下比政府)と「モロ・ イスラム 解放戦線 」(以 下 MILF)が「 和平の枠組みに 関する合意文書」に調印した。この調印式は、1970 年 代からイスラム反政府勢力と和平交渉を続けてきた比 政府と、 分離・独立を掲げて武装闘争を 30 年以上も 継続してきた MILF 双方にとって、最終和平合意へ大き く前進する歴史的な瞬間となった。調印式の様子はフィ リピンのメディアはもちろん、欧米のメディアでも大き く取り上げられ、日本のメディアでもミンダナオ紛争地 域での日本の貢献の一部が紹介されたが、 現場にい る日本人関係者の一人として、日本の貢献策について 簡単に紹介しておきたい。

日本政府は枠組合意締結後直ちに外相談話を発表 し、枠組合意を歓迎するとともに日本が引き続きミンダ ナオの和平と開発に継続して支援する旨を表明した。実 際にミンダナオ支援に 対する日本の支援は、2006 年 12 月に当 時 の 安 倍 総 理 が「日比 国 交 正 常 化 50 周 年 記 念 」で 発 表 し た“Japan- Bangsamoro Initiatives for Reconstraction and Development” ( 以 下 J-BiRD と略す ) に沿ってミンダナオ和平交渉に関与し、草の根 レベルの復興開発に貢献してきた。この J-BiRD の目的 は、比政府と MILF 間で進んでいた和平交渉を、紛争と 貧困に喘ぐ Bangsamoro( 以下モロと略す ) への復興開 発支援面で貢献するものであった。モロを正式に支援対 象としたのは日本政府が最初であり、和平合意後ではなく 和平交渉中に復興開発支援を始めたのも日本としては画 期的であった。こうして過去 6 年間に日本政府がミンダナ オの紛争影響地域で実施してきた J-BiRD 事業の総額は 120 億円以上に上り、比政府のみならず MILF との強い 信頼関係が樹立されてきたと言える。

J-BiRD 事業の特色は、日本独自の技術協力・無償 資金協力・有償資金協力という三つの援助形態を有機 的に組み合わせたことであった。これは技術協力で紛争 影響地域の対象村落への開発調査を先ず行って現地ニー ズを確認し、調査結果に基づ いて小規模施設は少額の 無償資金協力で迅速に対応し、中規模支援や地域限定 型施設は有償資金協力で広範囲に対応するといった包括 的なアプローチである。そのため実際に現場で事業を進め る国際協力機構 ( 以下 JICA と略す ) では、紛争影響地域 で 2004 年から停戦監視活動をしていた国際監視団 ( 以下 IMT と略す ) に社会経済開発支援専門家を 2006 年から 派遣して、紛争地域での安全を確保しつつ現場に足を運 んできた。JICA は既に 2002 年から、ムスリム・ミンダナ オ自治区 ( 以下 ARMM と略す ) の人材育成を支援するた めに、開発専門家を現地に派遣し、直接顔が見える支援 の中で信頼関係を構築する形で、様々な技術協力事業を 時間をかけて ARMM 地域で進めてきた。

その後比政府とMILF 間の和平交渉は必ずしも順調に は進まず、2008 年 8 月にはお互いの信頼関係が大きく損 なわれて武力衝突が拡大し、一時的に IMT も引き上げざ るを得なかったが、この厳しい局面でも日本の支援策は継 続されていた。2009 年末には和平交渉を再開した比政府 とMILF から国際コンタクトグループ ( 以下 ICGと略す ) が 要請されて、日本が英国・トルコ他国際 NGO 4機関と共 に、和平交渉のオブザーバーとして参加した背景には、こ れまでの日本の支援策を高く評価する比政府側のみならず MILF 側の要望もあった。また 2011 年 8 月に成田でアキノ大統領とMILF のムラド議長の直接会談が実現した背景 にも、比大統領側の直接会談の要望に対して MILF 側が 日本での開催を希望したと聞いている。結局当時信頼関 係を損ねかけていた両者を再び結びつけたのは、日本が長 年地道に現地で続けた J-BiRD 事業による開発支援や、 IMT や ICG 活動に人員を派遣して両者との対話を継続して きた成果といえる。

今後の枠組み合意の展望としては、今年から3 年間がミ ンダナオ和平の移行期間となっており、今後 2 年間に移行 委員会の設置による基本法の整備や ARMM に代わるバン サモロ移行政権の樹立等の困難課題が山積されている。  日本政府は直に比政府に対して和平移行期間に対する 支援として、①和平の定着に向けた支援②制度作りや人 材育成への支援③地域インフラやコミュニティ開発への支 援を表明している。既に始まった具体的な日本の支援策と しては、MILF の中堅人材育成に対する支援で、昨年大 使館の草の根無償支援で研修施設が建設され、JICA が 技術協力で研修実施面を支援している。この他にも今年 から JICA は MILF 開発部門に対する人材育成支援事業 を始めており、より広範な地域を対象とした事業を展開して いる。今後日本はミンダナオ和平枠組を実現していく過程 で、従来からの J-BiRD 事業で培った経験と両者との信 頼関係を活かして、さらに積極的な貢献をすることが期待さ れている。

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