コロンビアの平和を思い描き、誰も排除されることのない和解に向けた道筋を作る

コロンビア
 
 
 
背景
 コロンビアは長年にわたって内戦が続く西半球唯一の国である。1960年代半ばから、コロンビア革命軍―人民軍(FARC-EP)や民族解放軍(ELN)などの多くの武装集団がコロンビア政府と武力衝突を繰り広げ、これまでに22万人余りが殺害され、800万人が被害者として認定されている。

 コロンビアの内戦は、党派の対立と農地の収奪に対する長年の暴力の歴史に根差している。コロンビアは自由党党首ホルヘ・エリエセル・ガイタンが暗殺されたことをきっかけにラ・ビオレンシア(暴力の時代)に突入、1950年代には二大政党の自由党と保守党の間で暴力による勢力争いが起きた。

 10年後、自由党と保守党は協定を締結して「国民戦線」体制を樹立、安定がもたらされたものの、左翼組織を中心に政治的表現は抑圧された。こうした状況下において、社会的に疎外された貧しい農民や労働組合員、都市部の急進派の学生を構成員とするELNやFARC-EPなどによる革命的なゲリラ運動が起きた。

 こうした動きに対してコロンビア自衛軍連合(AUC)などの右翼のパラミリタリー(準軍事組織)が組織され、国の治安部隊に協力して頻繁に反政府勢力と闘った。
 この20年間は、麻薬密売、恐喝、誘拐、地雷などの犯罪行為によって内戦がさらに助長されており、反政府活動が集中している地域のコミュニティはあらゆる勢力による暴力の矢面に立たされている。

 歴代の政権は和平交渉を試みてきたが、同時に戦闘も強行した。政府とFARC-EPとの和平交渉としては、1980年-1984年と1999年-2001年が特に重要である。

 アルバロ・ウリベ大統領(2002年-2010年)の在任中の8年に及ぶFARC-EPとの戦闘後、フアン・マヌエル・サントス大統領(2010年-現在)は交渉による合意に力を入れた。政府とFARC-EPとの間のハバナでの和平協議では、当初は停戦合意が得られなかったものの、2012年以降、これまでに6つの議題について協議が行われてきた。

 2016年8月の本稿執筆時点において、政府とFARC-EPは、包括的和平合意に至る最終段階にあると思われる。これまでに両者は5つの議題(農地改革と農村開発:2013年5月、政治参加:2013年11月、違法薬物取引:2014年5月、移行期正義:2014年6月、内戦の終結:2016年6月)について合意している。現在は、和平協定の実施における手続き上の課題に取り組んでいる。

 今後は、和平交渉に対する国民の支持(FARC-EPと政府の両方に対して国民の信頼が低いため)と、合意内容を実施する和平協定の署名者に対する国民の支持を高めることなどが課題となる。

 また、政府はELNとも2014年から正式な和平交渉に関する議題を協議している。2016年3月には正式な和平協議を行う旨を公表したが、双方の不信感から交渉はいまだ開始されていない。
 
 
 
 

《コロンビアの平和を思い描き、誰も排除されることのない和解に向けた道筋を作る》
ロサ・エミリア・サラマンカ・ゴンサレス
リカルド・メンドサ

 
 
 ロサ・エミリア・サラマンカは和解と平和構築に取り組むコロンビアの団体「Corporación de Investigación y Acción Social y Económica (CIASE)」の戦略ディレクター。コロンビア社会の平和的転換を求める団体「Women, Peace and Security Collective」のメンバーとしても活動するかたわら、「Cumbre de Mujeres y Paz」という団体の政務報道官も務める。また、女性・平和・安全に関するコロンビア国家行動計画を推進する「Coalición 1325」にも参画している。
 
 コロンビア・ボゴタ在住のリカルド・メンドサは和解と平和構築に取り組む団体CIASEのアドバイザー。国際平和と武力紛争の問題に20年以上にわたって取り組んでいる。「Austrian Study Center for Peace and Reconciliation」で仲裁プロセスに関する知識を習得。
 
 コロンビアには音楽が溢れている。私たちは歓喜と絶望の歌を歌い、勝利と敗北の舞を舞う。体の中に流れる音楽には、アフリカや先住民族の音楽が刻むリズムとジプシーのメロディーが独特な形で融合している。コロンビアが目指す調和は、平和の舞と和解の舞の間にある。
 
 今日のコロンビア社会の文化と制度は、平和ではなく内戦の潮流が作ってきた。2012年現在、人口4,800万人のこの国は内戦によって、22万人余りが犠牲になり、600万人弱が強制的な立ち退きを受けたほか、誘拐(3万人)、強制失踪(2万5,000人)、性的暴力(1万3,000人)、地雷(1万1,000人)、拷問(1万人超)の被害を受けている。ジャーナリストをはじめ、人権擁護活動家、先住民、女性はみな暴力被害の対象となった。コロンビア社会は平和というものを思い描くことができない。多くの国民が生涯を通じて戦争や内戦、暴力しか知らず、戦争やその挑発行為を普通のこととして捉えている。
 
 「不幸なことに、60年にも及ぶコロンビア内戦によって報復の文化が生まれ、武器こそが全てを解決すると考えられています。この文化や考え方を変え、許しと和解の文化を創り出すためには、どうしたらいいのでしょうか?」レオネル・ナルバエス、Foundation for Reconciliation理事、「Elementos Básicos del Perdón y La Reconciliación」、2004年
 
 政府とコロンビア革命軍―人民軍(FARC-EP)との間のハバナでの和平協議は、この暴力の歴史に向き合う重要なきっかけとなり、真実と正義と和解に関して国民の間で幅広い協議を行う環境を創出した。これがなければ、コロンビア社会の中で解決に向けた対話や分析、提案の多くは不可能であった。しかし、和平協議は和平プロセスの重要な岐路となったものの、コロンビア社会としては今後、対立関係を転換し、国家や互いに対する信頼を再び築くために、難しい対話を重ねていかなければならない。
 
コロンビアにおける和解を理解する
 コロンビアにおける和解とは、個人と政治の両側面での課題である。和解は内戦に対する個人の体験に結びついているが、同時に内戦の原因に対するイデオロギー的な解釈の違いによっても変わる。
 
 
“多くの国民が生涯を通じて戦争や内戦、暴力しか知らず、戦争やその挑発行為を普通のこととして捉えている”

 
 
 国民のイデオロギーが多様なコロンビアが抱える喫緊の課題は、共存する方法を知ることであり、これが和解の第一歩となる。共存とは社会が違いを受け入れることである。そして和解をさらに深めるためには対話を通じて互いを理解しようと努めることであり、これには両者の関係構築が必要になる。持続する平和と和解に関し、私たちの前には大きな困難が立ちはだかっているが、それでも現在行われている交渉によって新たな可能性が生まれている。和解が進められている間の共存の必要については、ハバナで合意した移行期正義に関する協定の中に明記されている。
 
 「「提案された真実」委員会は、各テリトリーにおける共存を推進しなければならない。[省略]同委員会は対話の機運を高めるとともに、犠牲者・被害者を称え、個別および集団の責任を認める場を作るものとする。また、市民が互いへの敬意と信頼を強める場や、協力と連帯、社会正義、ジェンダー平等、寛容の心を促し、他人の問題に無関心を決め込まない民主的な土壌を醸成する場を作るものとする。したがって、内戦の再発防止、和解、安定し永続する平和の構築のための基盤を整えるものとする」
 
 
コロンビアの和解に特に重要な4つの点を以下で考察する
 
被害者による許し
 被害者にとって、許しは解放の行為となるが、同時に加害者が処罰を免れるリスクのある危険な行為でもある。
 
 コロンビア政府とFARC-EPとの間の交渉プロセスの枠組みは極めて革新的であった。和平協議では、あらゆる武装組織が一般市民に被害を与えたことを認めた上で、被害者の問題を議論の柱に据え、そのことが和平プロセスの信頼性の要となった。コロンビアでは3,000人ほどの被害者が協議の場に参加し、60人の被害者はハバナに出向いて直接証言し、内戦によるジェンダーに基づく暴力行為などに関して意見を述べた。2015年9月には、移行期正義に関する多岐にわたる枠組みを定めた「内戦の被害者に関する協定」が締結された。和平協議で被害者に焦点が当てられたのは頻繁に起きる暴力行為と、国家による暴力行為の関与を認めるよう求めた人権活動家の粘り強さによるものと思われる。
 
 被害者の問題を中心に考えることは、和平プロセスに大きな影響を与えた。2015年に締結された協定は今後、「真実、正義、補償、内戦の再発防止のための統合システム」につながる予定で、人権擁護に関して重要な意味がある。南アフリカにおける和平プロセス構築の経験を生かし、真実を語ることを特に重視したこの協定では、真実・共存・内戦再発防止委員会、和平のための特別権限(和平のための特別法廷、調査・訴追・判決を行う特別治安判事裁判所)、2万5,000人余りの行方不明者を捜索する特別部隊といった組織の設置を定めている。また、先住民や農村地域のアフリカ系コロンビア人、女性など、社会的な弱者であって内戦で大きな被害を受けた人々を中心に、被害者に賠償金を支払う包括的な措置も定めている。
 
 反逆などの政治犯罪については恩赦が予定されているが、人道に対する罪、重大な戦争犯罪、誘拐、拷問、強制退去、強制失踪、超法規的処刑、性的暴力には適用されず、和平のための特別権限に基づき取り調べや裁判を受けることとなる。
 
 
“許しによる関係の転換には、被害者と加害者という二項対立の関係に配慮しつつ、これを再構築し、両者の未来のために共に責任を担うという考え方に移行する必要がある”

 
 
 FARC-EPと政府はいずれも、これまでに公式な謝罪を行ってきた。2015年12月4日には、FARC-EPの前線司令官パストール・アラペが率いる委員会がボハジャ(チョコ州)を訪れ、2002年の虐殺(79人が死亡、100人以上が負傷)の被害者に対して許しを求めた。同様に、フアン・マヌエル・サントス大統領も国家の責任を初めて認め、1985年に起きた左翼ゲリラ組織4月19日運動(M-19)による最高裁占拠事件(100人以上が死亡)における治安部隊の過ちについて許しを求めた。さらにサントス大統領はサン・ホセ・デ・アパルタドにある平和コミュニティに対しても許しを求めた。このコミュニティは武力紛争の真っただ中にあって、いずれの勢力にも加担しない平和的な立場を取っていたにもかかわらず、FARC-EPを支援していたとして当局から無実の罪で訴えられたのであった。
 
 コロンビア社会の一部で宗教性が高まるにつれ、被害者が自らを解放し、苦しみを軽減する手段として許しに関する議論は広まっていった。しかし、許しを請い、許しを与えたとしても、それで真実・正義・補償・内戦再発防止の必要がなくなるわけではないと考える被害者は多い。彼らは各自が許しを与えることで政治の関与がなくなり、自らの権利行使を求める能力が損なわれることを恐れ、許すという行為を意義あるものとするにはこれらの取り組みが必要と考えている。また、国家が許しを補償や修復的正義を行わない口実に利用するのではないかともみており、許しが内戦の真実を明らかにすることに役立つか懐疑的である。
 
 
“許しによる関係の転換には、被害者と加害者という二項対立の関係に配慮しつつ、これを再構築し、両者の未来のために共に責任を担うという考え方に移行する必要がある。”
 
 
 この心打たれる発言があったのは、コンスタンサ・トルバイがハバナでの和平協議に参加し、FARC-EPの交渉責任者イバン・マルケスからトルバイの家族の虐殺について謝罪を受けた後のことであった。
 
 「ハバナでの会合では、私が人生で心から大切に思っていた人たちを殺害した責任者と向き合わなければならず、最初はとても辛い思いでした…。しかし、イバン・マルケスが真摯に許しを求めてきたとき、被害者と加害者というシナリオは新たな始まりというシナリオに転換し、私たちには平和を築くという責任が与えられたのです。許しは個人の行為であり、それぞれが寛容の心と憎しみのどちらかを選ぶ行為です」
 
真実
 コロンビアにおける和解で重要な点は、60年に及ぶ暴力と対立の中で何が起きたのか理解し、それを認めることである。
 
 和解のためには何が起きたのか、つまり、なぜ、いつ、どのように、誰が、誰に対して、ということを理解する必要がある。しかし、内戦の中にあって誰が何をしたかについては、情報はほとんどはっきりしない。恐怖による分裂は、特にアルバロ・ウリベ大統領時代(2002年-2010年)に実施された政策によってコロンビア社会に広まり、政府を批判するものは誰でもテロリスト、つまりFARC-EPや民族解放軍(ELN)に加担していると非難された。
 
 メディアも猜疑心や偏見の増幅に大きな役割を果たした。国や特に地方レベルで徐々に広がる腐敗を気づかせないかのように、パラミリタリーや自衛軍の行為を「敵」を倒すための適法な手段として正当化する一方で、ゲリラを悪の根源と決めつけた。実際のところ多くの国民が武装組織を区別することができず、パラミリタリーによる残虐行為をゲリラによるものと誤解することも多い。また、内戦の体験についても、居住する地域、身近に存在する暴力の有無、社会状況、自身のインクルージョン(排除されないこと)とエクスクルージョン(排除されること)の程度、学校で教えられる歴史、政治的イデオロギーによって大きく異なっている。
 
 国民が、アイデンティティの多様性や内戦の体験の違いを認識することは将来の共生社会にとって重要である。文化、ジェンダー、政治、宗教の面で多様なアイデンティティを社会に反映させるためには、教育、情報共有、真実の語りに関して熟慮を重ねたプロセスが国全土で必要となり、そのプロセスには内戦体験者の話に基づく歴史の再構築を伴う。
 
 コロンビアでは真実の解明や歴史記憶の構築に向けて大きな進展が見られている。その背景にあるのは、残虐行為や特定の集団・人を狙った暴力事案の記録を続けている人権活動家の取り組みや、全国で見られる市民社会による活動などである。
 
 一方、「National Center for Historical Memory」の設置など、国としての取り組みも重要である。2005年、ウリベ政権下で法律により定められた同センターの使命は、包括的補償の実施に寄与することと、内戦の被害者と社会全般に真実を知る権利を与えることである。同センターでは、各コミュニティに出向き被害者から直接証言を集めるなど、聞き取り調査やリサーチを行っている。2013年には、半世紀にも及ぶ内戦の中で繰り返されたさまざまな暴力行為、それにかかわった主要組織、社会に与えた影響をまとめた「Basta Ya!(もうたくさん!)」と題する報告書を公表した。
 
 
“国と和解するためには、国民の多様性を十分に代表する国家も必要である”

 
 
 こうした活動は国の説明とは異なる、事件の正確な記録を集める第一歩である。しかし、真実の断片をつなぎ合わせるこうした取り組みの最中も内戦は続いている。ハバナで停戦と内戦終結の合意にようやく至ったのも2016年6月23日のことであり、本稿執筆時点でも敵対的な状況に変わりはなく、非難と猜疑心がうずまいている。国民の多くは内戦中に起きた出来事を明らかにする取り組みを脅威と捉え、和解というのは考えの甘い取り組みであって、FARC-EPを信用することはまだできないと考えている。はっきりしているのは、人権侵害と強制退去は和平協議の最中にも続いているという事実である。「Marcha Patriotica」によるデモや「Cumbre Agraria」によるストライキなどの社会運動、先住民やアフリカ系コロンビア人組織、学術界、記者などの市民社会に対する暴力行為と脅迫は、極めて憂慮すべき傾向を示しており、コロンビアの非政府組織「Somos Defensores」によると、2015年に殺害された人権擁護活動家は2014年から13パーセント増加しているという。
 
 過去に起きたことを知ることができれば、和平に向けた展望に自信を持つことにもつながる。例えば、社会の中には、かつての戦闘員が政界に進出することを決して認めない集団もいるが、1999年-2002年のFARC-EPとの和平交渉が失敗に終わった原因を明らかにし、和平協議の決裂が両者の責任であることを公表すれば、元戦闘員の社会復帰に対する懸念はいくらかでも払拭されることになろう。同様のことは1994年に武装解除した左翼ゲリラ組織4月19日運動(M-19)など、これまでの和平協議の交渉相手にも当てはまる。10年が過ぎ、合法政党化した今もなお敵意を向けられているのだ。
 
国家に対する信頼の醸成
 和解とは、単に加害者を許し、過去に起きたことを理解することではない。内戦に至ったときとは状況が確実に大きく変わっていること、そして国は決して同じ状況を起こさず、許さないと信頼できることを意味する。
 
 コロンビアでは社会契約が重視され、その中で国は過失、欠格、直接関与のいずれを問わず、FARC-EPと同様、犯罪に対して責任があると見なされている。政府関係者は、政府から軍部、司法組織に至るまで、パラミリタリーや麻薬密売人を含む武装勢力を支援、あるいはこれに協力したとして非難され、場合によっては責任があるとされている。つまり、この国は組織的に国民の人権を侵害し、国民の安全を確保せず、国や地方の政党が犯罪組織と手を結ぶことを認めるばかりか奨励し、その結果、暴力と腐敗を招いたと見なされているのだ。
 
 その一方で重要な進展もあった。政府は内戦における国の責任を認め、移行期正義に関する合意内容は政府関係者にも適用されることとなった。すでに国会議員をはじめ地方議会の議員に対して、パラミリタリーとの関係に焦点を当てた尋問が行われている。中でも特に注目を集めているのが、数千人もの市民の殺害に関与していたとする、元コロンビア軍最高司令官マリオ・モントーヤ将軍に対する尋問である。ただし、合意内容の対象とならないケース、中でも軍が市民を殺害しゲリラに偽装した「ファルソス・ポシティボス(偽りの戦果)事件」のようなケースに対する懸念は残る。
 
 国と和解するためには、国民の多様性を十分に代表する国家も必要である。これには、国民の信頼を醸成することを目的に、国家は過去の損害を賠償するだけでなく、内戦終結後には国民の利益のために行動すると信用できるような国の制度を再構築することが含まれる。その糸口となるのが、刑事免責は被害者の権利の充足度合いで測定する必要があるとする、コロンビアの和平高等弁務官の提言である。
 
 このような抜本的な改革を行うためには、対立の根本原因である構造的暴力と多くの農村コミュニティ・先住民コミュニティがいまも負っている苦しみを償う取り組みの効果を高める必要がある。例えば、強制立ち退きにあった住民に土地を返還する土地返還プロセスは、2012年から開始されたものの遅々として進んでいないのが現状だ。「アムネスティ・インターナショナル」は、2015年末までに土地の返還を命じた判決に実際に従ったケースはごくわずかであると言い、農民による申し立てで返還された土地は5万8,500ヘクタール、先住民居住区は1カ所5万ヘクタール、アフリカ系住民居住区は1カ所7万1,000ヘクタールだけである。返還が進まない主な要因は、国が土地を返還された住民の安全を保証できないことと、返還が確実に継続するような有効な社会的対策や経済措置が欠如していることである。しかも、強制退去は今もなお続いている。
 
 国と社会が和解するためには社会契約の本質にかかわる難しい協議を重ねる必要がある。「Women, Peace and Security Collective」は、このプロセスを実現させる糸口として革新的な例を示している。それによると治安部隊や人権団体、市民社会など、コロンビア社会で伝統的に対立してきたさまざまな集団から女性を参加させる。参加者は各自の立場から紛争体験を語ることで、それぞれの体験や考え方を決定づけ、組織や紛争に結びついたステレオタイプを打ち砕くことができる。女性と平和と安全に焦点を当てることによって、参加者は安全のパラダイムを従来の強硬な手段や軍事力といったものから人間の安全保障を柱にしたものへと再構築できるようになる。
 
 2000年代にFARC-EPに誘拐され6年に及ぶ人質生活を送ったイングリッド・ベタンクールは、2016年4月、コロンビアに帰国した際のスピーチで真の和解について次のように述べている。
「真の和解は、単に加害者と被害者の間で行われることではありません。…そうではなくて、全ての社会的主体と政治的主体が直接対面して真実を語る必要があるのです。しかもそれは、これまでのように過去を忘れたり、支配層と手を組んだりするためではなく、一段と包摂的で民主的な社会…つまり意見が異なっていても誰もが共存できる社会を作るために行わなければなりません」Fundación Buen Gobiernoフォーラム「Reconciliación, mas que realism mágico」でのスピーチ、2016年5月5日
 
 
インクルーシビティ(誰も排除されないこと)
 数十年にも及ぶ排除と周縁化を経た和解には、国内にいくつもの異なる集団が存在することを認め、さまざまな考え方を尊重することも含まれている。
 
 和解が意味するものは、それぞれの置かれた状況、関心、優先事項によって異なる。例えば、先住民コミュニティの場合には、司法プロセスよりも修復的正義の実現を重視し、他の集団との関係だけでなく自分たちが暮らす環境とも良好な関係を築くことを求める。彼らにとって大地と自然に敬意を払うことは重要だからだ。
 
 こうしたことから、和解は勢力関係に関係し、これに左右されるといえる。ここでいう勢力とは、和解のあり方や和解の対象に宗教や階級、ジェンダー、民族的文化的関係を通じて影響を及ぼす人々をいう。したがって、実際の意味合いにおいては、誰が和解を推進しているか認識することが重要となる。和解は、真実、正義、補償、内戦の再発防止の実現に向けた努力の成果なのか?それとも国民の文化の転換に向けた努力の成果なのか?あるいは和解とは、社会のために倫理的または社会的な契約を作ることを意味しているのか?重要な論点となるのは、既存勢力から引き出した和解には、長期にわたる内戦の一端を担ったまさにその勢力構造に立ち向かう力があるのかということである。新たな視点に立つ和解では、そこに内在する勢力を法律上でも事実上でも許さず、社会的に疎外された人々の声を取り入れる方法を検討しなければならない。
 
 ここで1つの懸念となっているのが、「公式の」和平プロセスの一環として取り組んでいる、変化よりも許しを重視する和解は転換につながらないとの思いである。つまり、既存の勢力関係に立ち向かうのではなく、あくまでも表面的な融和の姿勢を示しているにすぎないというのだ。
 
 ハバナでの和平交渉が和解に向けた協議に弾みをつけている中、ここ何年にもわたり、有意義な和解プロジェクトが戦闘の中でも実施されてきた。例えば、カトリック教徒と福音主義キリスト教徒の草の根コミュニティは、暴力行為によって甚大な被害を受けた農村地域で開発・和解プログラムを実施し、複数の慈善団体は、さまざまな武装集団の元戦闘員と共同で経済プロジェクトを促進している。また、女性や被害者、先住民の組織は、全国または地方で和解のための取り組みを実施している。
 
“転換を実現するためには、普通と思われている行為も見直す必要がある”

 
 例えば、女性のための全国ネットワーク「Ruta Pacífica de las Mujeres」は、女性の体験に焦点を当て記憶と真実を掘り起こす取り組みを実施している。これまでにコロンビア全土で人権侵害を受けた女性1,000人近くから証言を集めた。こうした取り組みはハバナで提案された真実委員会が事例として、とりわけ女性などの社会的弱者と協議する手法として活用すべきであろう。
 
 
“転換を実現するためには、普通と思われている行為も見直す必要がある。”
 
 
 女性が繰り返し主張しているのは、戦時下において家庭内暴力は増えるが、暴力そのものはコロンビアの家父長制社会の「一般的な」家庭の多くで普通に見られるという点である。女性は武力紛争という状況において「絶え間ない暴力」とその計り知れない影響を訴えている。こうした暴力そのものと、そうした行為の存在を認めることが、個人と集団の文化的転換を明らかにし、促進する上で要となる。排除、差別、階級といった構造的原因のみならず、暴力的な行為は他者に対する尊敬の念の欠如を表すものだ。他者の権利を認めない和解では意味がない。
 
 100名を超す個人会員から成る「Women, Peace and Security Collective」は、「対等な相手」との協議に疑問を投げかけ、「立場の異なる相手」どころか「敵とみなす相手」との協議を断固として求めた。女性によるこの和平プロセスは、想像もつかなかった全く異なる相手との対話を可能にするものである。
 
 
結論:和解の力

 コロンビアの和平と和解にはハバナでの合意内容以上の意味がある。その意味とは、さまざまな主体との間で新たな社会契約を作り、永続する平和の実現を目指すことである。
 
 
 私たちコロンビア国民は現在、軍国主義とコロンビア社会に根強く残る報復の文化を打破し、国をなおも二分する主戦論者の意見に対して暴力に訴えることなく反論するという難しい課題を抱えている。主戦論者の意見とは事実上の権力者の意見であり、繰り返されるコロンビアの内戦による混乱は、彼らの経済的利益に適い、領地と国民を掌握するという点で有利に働いている。
 
 和解の枠組みは政治主体だけで構築してはならない。和平と和解の流れを作っていくためには、市民が積極的に自らの恐怖を克服する必要がある。ただ、ここで問題となるのは、真実を語るという行為は国民が受け止めきれる以上の事実を公にしてしまう点である。それを解決するのは真実を隠すことではなく、市民や社会、国が真実を受け止められるように能力を強化することである。したがって、私たちは和解を支える既存または過去の経験を基に、現時点では欠落している、個人・社会・政治・経済・制度・文化面での能力を育成することを提案する。
 
 コロンビアをはじめどの国にも適用できる決まった和解方式というものはない。重要なのは、それぞれ特有の状況下で、多様な組織や市民社会の主体に対して適正な政治的支援や資金援助を提供できる環境を想定し、構築することである。その結果、そうした主体は適法な独自の和解プロセスを構築し、新たな社会契約の定義を決めることができるようになる。
 
 私たちが描くインクルーシブな社会の舞には、平和を思い描き、恐怖を克服し、和解による転換を実現し、私たち一人ひとりのために真実と社会正義の連鎖を生み出すことが求められている。
 
 
 
 
 
※この記事の英語の原文は、下記のURLリンクからアクセスが可能。
http://www.c-r.org/accord/reconciliation-and-peace-processes-insight/imagining-peace-and-building-paths-inclusive
 なお、この記事の日本語への翻訳については、Conciliation Resourcesからの了承を得ている。